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福岡地方裁判所小倉支部 昭和38年(ワ)789号 判決 1965年8月13日

主文

被告は原告に対し、別紙物件目録第三記載の建物を明渡し、且つ、同目録第一記載の建物を収去して同目録第二記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行宣言を求め、

請求原因として、

「(一) 原告は昭和三〇年九月三〇日被告に対し別紙目録第三記載の建物(以下本件建物という)及び別紙目録第一記載の建物の敷地である別紙目録第二記載の土地(以下「本件土地」という)を次のとおりの条件で賃貸した。

期間 昭和三〇年九月三〇日から同三六年一二月三一日まで

賃料 昭和三〇年一〇月から同年一二月三一日まで一ケ月一万五、〇〇〇円、同三一年一月一日から二万円毎月末日原告住所に持参払

特約

(イ)  賃料を二ケ月分以上滞納した場合原告は即時賃貸借契約を解除できる。

(ロ)  被告は訴外鬼塚仁美に本件建物を転貸できる。

(ハ)  被告は本件土地を第三者に転貸又は店舗の使用権を譲渡することができる。

(二) 被告は

昭和三二年一月一日から賃料の支払を怠つたので、原告は被告に対し同年四月一二日付の書面で同年一月一日から同年三月末日までの賃料六万円の支払を怠つていることは前記賃貸借契約の特約(イ)の条項に当るとして右条項に基き同月一一日限り解除する旨の通知をし、右書面は同月一三日又は一四日被告に到達した。

よつて本件賃貸借契約は右通知書が被告に到達した同年四月一三日又は一四日に解除された。

以上の理由により原告は被告に対し別紙目録第一記載の建物を収去して本件土地を明渡すこと、及び本件建物を明渡すことを求める。」

と述べ、

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決ならびに敗訴の場合には担保を条件とする仮執行免脱宣言を求め、答弁および抗弁として

「(一) 請求原因(一)の事実、同(二)の事実中被告が同年一月から賃料を支払つていないことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 原告は被告に対し本件賃貸借契約成立と同時に賃借権設定登記手続をすることを約していたが、右手続を履行しない。

被告は原告に対し昭和三一年一〇月一二日書面で右登記義務の履行を求め、原告が右登記義務を履行すると同時に賃貸借契約上の義務を履行すべき旨同時履行の意思を表示し、右書面は翌一三日原告に到達した。

よつて被告には原告主張のような履行遅滞の責任はなく、従つて原告主張の契約解除は無効である」

と述べ

原告訴訟代理人は被告の抗弁に対し

「右抗弁事実中原告が被告に対し賃借権設定登記をする旨約したことは認めるが、その余の事実は否認する。

右賃借権設定登記は、被告において原告に対し保証金一〇万円を支払うことが条件とされていたところ、被告は右義務を履行しないので、従つて登記義務の履行期は到来していない。

仮に右両義務が同時履行の関係にたつとしても原告は昭和三一年一〇月二七日被告に対し賃借権設定登記手続をするからこれに協力するよう口頭で弁済の提供をしたが、被告はこれに応じなかつた」

と述べ、

被告訴訟代理人は

「右事実は否認する」

と述べた。

立証(省略)

理由

原告が被告に対し本件土地と本件建物を昭和三〇年九月三〇日に期間は両日から同三六年一二月三〇日まで賃料は同三〇年一〇月一日から同年一二月三〇日までは一ケ月一万五、〇〇〇円、同三一年一月一日からは一ケ月二万円、毎月末日原告住所に持参払をする。賃料の支払を二ケ月分以上怠るときは原告は即時賃貸借契約を解除できる。被告は訴外鬼塚仁美に本件建物を転貸することができ、本件土地を第三者に転貸又は本件土地上の被告所有の店舗建物につきその使用権を譲渡することができる旨の約で賃貸したこと、及び被告が原告に対し同三二年一月一日から賃料の支払をしていないこと、以上の事実は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一、二号証によれば、原告は被告に対し同年四月一日書面で、二ケ月分以上の賃料の支払を怠つたときは即時賃貸借契約を解除できる旨の前記特約に基いて右昭和三二年一月分以降の賃料不払を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右書面はおそくとも一四日には被告に到達したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。被告は賃借権設定登記をする義務と賃料支払義務とは同時履行の関係にあり、被告は賃料支払について同時履行の意思を表示したから賃料支払について履行遅滞の責はなく、従つて契約解除の効力はないと主張するので、この点について判断する。

原告が被告に対し本件賃貸借契約について賃借権設定登記をする旨を約していたことは当事者間に争がないところであるが、賃借人の賃料支払義務は賃貸人の賃貸物件を使用させる義務と対価関係にたつものであるから、賃貸人が右賃貸物件について修繕義務を履行しないとか或は物件の使用を妨害するなど、賃貸借契約の目的を達しない場合にはこれを理由として賃料の全部又は一部の支払を拒絶し得ることは明らかであるが、本件において賃借権設定登記をなすべき義務は本件賃貸借契約の内容をなすものではあるが、賃料支払義務とは対価関係にたたず、従つて右の登記義務不履行を理由に賃料の支払を拒絶し得ないものと解するを相当とする。従つてこの点に関する被告の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がないので被告は原告に対し原告主張の賃料不払について履行遅滞があつたものというべきである。

次に原告は賃料の支払について二回分以上滞納があつた場合は即時解除をなし得る旨の特約に基いて本件賃貸借契約を解除した旨主張するので、右特約の効力について判断する。

継続的契約である賃貸借契約について催告不要の特約は特段の事情ない限り一般的には賃借人の地位を著しく不利にするものであるから無効であるというべきであるが、証人は柴田トシ子、原、被告本人の供述に弁論の全趣旨をあわせ考えると、本件賃貸借契約は先に原、被告間において継続していた家屋収去、土地明渡請求事件訴訟において成立した裁判上の和解の調停条項を変更したもので、三月分以上の遅滞の場合としてあつたのを、当事者間で他の条項を含めて検討し、三月分以上とあるのを二月分以上と改訂することに双方合意したものであることが認められ、以上の事実を考慮すると、本件においては特段の事情にあたるものとして右特約は有効であると解するのが相当である。

以上認定の事実によれば、原告の被告に対してなした契約解除の意思表示は有効であると認められるから、これにより前記認定のとおり右意思表示が被告に到達したと認められる昭和三二年四月一四日に本件賃貸借契約はこれにより終了したものというべく、従つて被告は原告に対し別紙目録第一の建物を収去して本件土地を明渡し、且つ本件建物を明渡すべき義務がある。

よつて本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行宣言は相当でないので付さないこととし、主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

第一、北九州市小倉区京町四六番の一

家屋番号 四七三番

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪  一二坪二合五勺

外二階 一〇坪

第二、元同所同番地の一

一、宅地  二九坪三二

右同所四五番地に合併四五番地となり四五番地を分筆し

同所四五番地の一

宅地  二六坪七一

同所四五番地の二

宅地  三八坪一六のうち

第一の建物の敷地部分

宅地  一二坪二五

第三、同所四五番地の二

家屋番号 京町一七ノ二

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪  二七坪七合二勺

外二階 六坪九合一勺

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